遺産分割協議書の作成手順(法定相続人と相続財産の確定)
1.遺産分割協議の主なながれ
遺産分割協議の流れと遺産分割協議書作成の手順は下記の通りです。
●遺産分割協議の期限:分割協議書はいつまでに作成すべき?
分割協議書はいつまでに作成すればよいのでしょうか?
民法上の作成期限の定めはありませんが、、相続税の申告は相続開始後、10カ月以内にしなければなりません。期限を過ぎると小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用を受けることができません。基本的には遺産分割協議は相続税申告期限内に済ませておく事が重要です。
他にも、法改正による相続登記の義務化(3年以内)や、特別受益と寄与分の主張(相続開始前10年以内)などの期限があります。
いずれにしましても早めに分割協議を進める事が肝要です。
2.遺言書の有無の確認(自筆証書遺言書や公正証書遺言書の確認)
遺言書がある場合は分割協議は不要となりますので、まず遺言書がない事を確認してから遺産分割協議の手続きを始めましょう。
遺言書の有無の確認方法については分割協議の事前準備のページを参照して下さい。
3.法定相続人の特定と必要となる戸籍収集の範囲
相続財産を受け継ぐ権利者である法定相続人やその順位や分割割合について解説します。
1)法定相続人とは? 配偶者と血族の相続順位
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続できる人で、被相続人の配偶者と血のつながりのある血族(子、両親や祖父母、被相続人の兄弟姉妹)です。
配偶者はかならず相続人となり、血族相続人には順位があり、それぞれ法定相続割合が決まっています。
2)法定相続人の特定のための戸籍の調査方法
被相続人の出生時から死亡時までを網羅する戸籍謄本、付票、除籍謄本、原戸籍(改製原戸籍謄本)を取得し、法定相続人を特定します。
●相続人の調査に必要となる書類
- 現在戸籍:現に、在籍している人が記載されている戸籍。
- 除籍:婚姻、養子縁組、死亡などにより、最終的に在籍者が誰もいなくなった戸籍
- 原戸籍:戸籍法の改正前の改正された戸籍の元となった戸籍
- 戸籍の附票:各相続人の住所を確認するために必要
① 亡くなった人(被相続人)に子がいる(いた)場合
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の現在戸籍謄本
- 被相続人より先に死亡した子(同時死亡も含む)についての出生から死亡までの連続した戸籍謄本
② 亡くなった人(被相続人)に子がいない場合
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の現在戸籍謄本
- 既に死亡した父母または祖父母の死亡記載の戸籍謄本
- 被相続人の父母双方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人より先に死亡した兄弟姉妹(同時死亡も含む)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
相続人が多い場合や子供がいないお一人様の方、離婚、再婚、住所変更等がある場合は複数の戸籍を追いながらそれらを読み解く必要があり、相続人の特定にはかなりの時間がかかる事が予想されます。
実際の例としては、兄弟4人の一人さまの相続で、代襲者を含め6人の戸籍調査を開始しましたが、相続人に移転や離婚や再婚があったため、結果的に30枚の戸籍謄本などを収集する事となりました。
複雑な場合は事前に相続専門の行政書士などに相談し、戸籍の収集と相続人の特定などを依頼する事も検討しましょう。
法務局における法定相続情報証明制度について
不動産登記や銀行、証券会社等の相続手続きにおいては、お亡くなりになられた方の戸籍謄本及び除籍謄本や相続人の戸籍謄本や住民票等の全てを相続手続のたびに何度も出し直す必要があります。
その不便さを解消する目的で、法定相続情報証明制度が平成29年5月29日からスタートしました。
登記所(法務局)に戸除籍謄本等と相続関係を一覧に表した図を提出すれば、一覧図に認証文を付した写しを無料で交付されますので、その後の相続手続は法定相続情報一覧図の写しを利用する事で不動産の相続登記申請や銀行、証券会社等での相続手続きが可能となります。
●法務局の参考サイトとエクセルダウンロード
👉 法務局:法定相続情報一覧図の様式及び記載例(エクセルダウンロード)
4.相続財産の調査と財産目録の作成
被相続人の財産つまり預貯金等の調査や不動産の調査、また相続財産の評価が必要となります。
1)相続財産の範囲
被相続人の相続財産の範囲には預金や不動産などのプラスの財産と住宅ローンや保証債務などのマイナスの財産があります。
●プラスの財産には次のようなものがあります。
・ 動産(現金や家財、書家骨董、貴金属類)
・ 不動産(土地や家屋・アパートや商業ビル)
・ 有価証券(株式や国債、社債、手形など)
・ 債権(預貯金や貸付金など)
・ 生命保険金)被相続人が被保険者の場合)
・ その他(著作権、特許権など)
●マイナスの財産には次のようなものがあります。
・ 借金(住宅や車のローン、クレジット債務)
・ 保証債務や連帯債務
・ 未払い金(賃借料や水道光熱費、医療費)
・ その他(敷金・預り金・買掛金・前受金)
2)相続財産の調査方法
①不動産の調査方法
各市町村から毎年4月頃にやってくる固定資産税の通知書や相続人の情報によって不動産の場所を特定した上で、市区町村役場で固定資産の『名寄せ帳』を取り寄せます。その後不動産の登記簿謄本と固定資産税の評価証明書を取り寄せます。
●相続不動産の確定の盲点・私道の見逃し
宅地に接道している私道の一部や全部を所有している場合、私道に課税されない場合が多いため、納税通知書に記載されず、相続財産から漏れてしまう事が数多く見受けられます。
例えば『自宅の土地は長男に、その他の財産は次男に』などと分割協議をした場合、漏れた私道は次男の所有となり、関係性が悪い場合はトラブルの元となってしまいます。
接道している私道であれば、法務局で公図で確認し、私道部分の全部事項証明書を入手して確認しましょう。
②預金(貸金庫)や証券口座の確認方法
手元に残っている預金通帳、貯金通帳、残高証明書、利息計算書などの書類から、取引していた金融機関を特定し、その金融機関に対して相続の開始を告げた上で依頼します。 その金融機関における口座取引状況を確認することができます。
③債務の確認方法
債務の通知書や督促などの書面が残っている場合は簡単ですが、連帯保証債務などの場合は特定できる書面が残っていない場合などもありますので非常に厄介です。 債務が相続財産を超える事が想定できる場合は相続放棄(三か月以内)の方法も早めに検討しておきましょう。
3)財産目録の作成
財産目録の作成の義務はありませんが、相続財産が確定できたら財産目録を作成しておきましょう。遺産分割や相続税申告時に約二たちます。
●財産目録作成のポイント
①財産の特定ができるよう詳細情報を記載する
・不動産は地番や家屋番号、
・預貯金や金融機関名、支店名、口座番号
②不動産や金融商品は亡くなった時点の評価額を記載する。
●財産目録のサンプルと財産目録エクセル表の無料ダウンロード
●財産目録のエクセル表の無料ダウンロード
遺産分割協議の方法と分割のポイント
1.相続人全員による協議と合意が必要
遺産の分割協議には相続人全員の参加が必要です。相続人が一人でも欠けた分割協議は無効となります。当然ですが、相続人(または遺言で遺贈された包括受遺者も含む)でない方が加わった分割協議も無効です。
1)相続人に未成年者や認知症等がいる場合(法定代理人・成人後見人の選任が必要)
●未成年者の場合
相続人が未成年者の場合は、原則的には親権者が代理人として遺産分割協議に参加する事となります。
しかしその親権者が法定相続人の一人である場合は利益相反となりますので未成年者の代理人にはなれません。
その場合は家庭裁判所に『特別代理人の選任』の申立てを行います。特別代理人には利益相反とならない親族も特別代理人となれますが、弁護士などの専門家に依頼する場合が多いようです。特別代理人に選任された人が未成年者に代理して遺産分割協議に参加します。
因みに未成年者が複数いる場合はそれぞれ特別代理人の選任が必要となります。
●判断能力を欠く人(認知症等)がいる場合
相続人に判断能力を欠く人がいる場合は成年後見人が代理として遺産分割協議に参加する事となります。
成年後見人がいない場合には、家庭裁判所に『成年後見人の選任』の申立てをする必要があります。
既に成年後見人がいるがその成年後見人が相続人であるときは利益相反となりますので、その場合は
『後見監督人』が代理人として遺産分割協議に参加する事となります。
2.相続人に行方不明者がいる場合(相続財産管理人が必要)
相続人の中に長年音信不通の方や行方不明者がいる場合の住所の特定する方法は次のとおりです。
●戸籍の附票による住所の特定
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本から行方不明者の現在の本籍地をたどり、その本籍地で戸籍の附票を請求し、現在の住所を特定し連絡を取ります。
戸籍の附票:現行の本籍が作られた時点からの住所の履歴が記載されている証明書
●記録上の住所に住んでいない場合
戸籍の附票で探し当てた記録上の現住所には既にどこかに引っ越していて不明の場合は、現住所地か、その前の住所地の家庭裁判所に、「不在者財産管理人の選任」の申立ててを行い、不在者財産管理人が行方不明の代理として遺産分割協議に参加する事となります。
●見つかったが遺産分割協議の参加を拒否した場合
やっと所在不明者の相続人を見つけたとしても遺産分割協議への参加を拒否する方も稀にあります。
その場合は、相手方の住所地の家庭裁判所に『遺産分割調停』の申立てを行い、家庭裁判所で調停を行う事となります。調停がまとまると、合意した内容を家庭裁判所が『調停調書』として交付します。遺産分割調停調書は遺産分割協議書と同一の効果を持つので不動産登記や預金の解約払い戻しなどの相続手続きをする事ができます。
3.遺言と異なる遺産分割をするときに包括受遺者がいる場合
被相続人の遺言で、法定相続人以外の方が財産の一部を包括遺贈されたとき、相続人(受遺者も含む)合意の上で、遺言書と異なる遺産分割をする場合においては包括受遺者は相続人と同一資格(民法第990条包括受遺者の権利義務)で参加が必要ととなります。
包括遺贈:相続人でない人に財産を特定せず、財産を全部または半分など割合で包括的に遺贈する事
2.相続財産を遺産分割する4つの方法
日本では特に相続財産のほとんどが不動産の場合が多い為、公平に分割することがかんたんではありません。 遺産分割には記のような4つの方法があります。
その一つを選択するか組み合わせで分割する事も可能ですのでそれぞれの長所や短所をよく考えて実行することが肝要です。
①現物分割:
土地、自宅、現金等をそのまま各相続人に分配する。
解り易く、財産を現物でのこせる。公平にわけるのが難しい。
②換価分割
土地、自宅等を売却した上で現金を各相続人に分配する。
公平な分配が可能となる。 売却に手間と費用がかかる上に所得税や住民税等が課税される。
③代償分割:
土地、自宅等を一部の相続人に分け、他の相続人には現物を相続した人から金銭で支払う。
事業用資産や農地等を細分化せず残すことができる。 代償できる資金力が必要となます。
④共有名義:
複数の相続人で持ち分を決めて共有で所有する。
公平な分配が可能となり、財産を現物で残すことができるが、 利用や処分が自由にできず、次の世代の相続時には権利関係がより複雑になりもめごとになり易い。
3.分割協議の合意が成立後に遺産分割協議書を作成し捺印
相続人全員の合意が成立したら、その分割内容を遺産分割協議書として作成し、全員で署名、実印による捺印をします。
この遺産分割協議書でその後の相続手続きを行う事となります。
遺産分割協議書の書き方・作成のポイント
①形式・用紙:
特に定められた書式、形式がなく、最近はA4用紙にパソコン等で作成するのが一般的です。
②被相続人:
亡くなられた被相続人の氏名のほかに本籍、死亡年月日を記載する。
③相続人:
相続人の氏名、住所、相続人との続柄を記載する。
④内容:
どの財産を誰がどれだけ(所在地、広さ、金額等)取得したかを出来るだけ具体的に記載する。
⑤署名・捺印:
相続人全員が署名し、実印を押印する。印鑑証明書を添付する事が必要です。
財産を取得しなかった相続人がいる場合も分割協議書への署名と捺印が必要です。
用紙が複数枚になる場合は用紙と用紙の間に契印(割印)を全員で行います。
⑥保管:
相続人の人数分作成し、各自で保管する。
i遺産分割協議終了後の相続手続きについて
遺産分割協議が成立したら、不動産の移転登記や金融資産の解約・払い戻しなどの手続きをかいししましょう。
相続手続きの窓口サイト
不動産の登記関連(法務局)
金融機関:銀行・証券会社
●ゆうちょ銀行の相続手続き窓口サイト
・ゆうちょ銀行
●各銀行の相続手続き窓口サイト
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