借地権を相続するときに知っておくべきポイントとは
両親の借地権の家を将来的に受け継ぐ方やまたは親がなくなり借地権の自宅を相続したとき、または叔父さんや叔母さんから借地権付きの家を遺贈されたときに知っておくべき事を解説します。
1.借地契約書(賃貸借契約書)や建物登記の確認
最初に権利関係を明確にしておく事が大事です。 地主さんとの借地契約書や家の登記簿謄本を確認しましょう。
①地主さんとの賃貸借契約書の内容を確認
地主さんとの契約者が被相続人と異なっている場合もよくあります。 また契約書が紛失している場合は借地権の相続が確定した後に地主さんと契約書を締結しておきましょう。
②借地上の建物登記の確認
建物の登記が被相続人でなされていれば問題はありませんが、よく相談されるケースとして、祖父の名義のままだったり、叔父や叔母と共有で登記されている事があります。。
祖父の名義のままの場合は遡って祖父の相続手続き(祖父の法定相続人または代襲者との遺産分割協議)も必要となります。 また共有で登記されている場合は共有者(または代襲者)との調整も必要となってきます。
2.借地権を相続した時の名義変更料等について
借地権を相続した時に地主さんから名義変更料(名義書き換え料)などを要求される場合もあるようですが、借地権の相続は譲渡に該当しない為、地主さんへの名義変更料、承諾料の支払いは不要です。 地代、契約期間等契約の内容はそのまま継承されますので新たに賃借契約を取り交わす必要はありません。(借地権の継承者が確定した段階では新たな借地人さんと地主さんとの間の賃貸借契約は結んでおきましょう。)
借地権を相続した後は更新料や建て替え承諾料などの慣例として被相続人がいままで支払っていた費用は相続人が継続して支払う事となります。
3.借地権の評価(借地権割合と課税評価額)
借地権の3つの要件や借地権割合と路線価の調べ方などについて解説します。
1)借地権とは
借地権とは建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権で、自宅をやアパートなどを立てる目的で、地主さんから土地を借りる権利の事です。
借地権は、相続税や贈与税の課税対象となります。
借地権の種類
借地権には主に①旧借地権、②普通借地権、③定期借地権の3種類があります。
①旧借地権(旧法 借地法)
現行の『借地借家法』が施行された、1992年8月1日より前の『借地法』に基づいた権利のことです。現行の借地借家法の借地権と比べて借主の権利が強いのが特徴です。
②普通借地権(新法 借地借家法)
普通借地権とは、契約の更新ができる借地権で、存続期間は基本的に30年となり、30年以上の存続期間を契約で定めることもできます。
30年よりも短い存続期間を定めても無効となります。
③定期借地権(新法 借地借家法)
定期借地権は、定められた存続期間の経過によって契約が終了する借地権です。
契約の更新はできず、契約期間を満了後は、更地にもどして土地を地主に明け渡す必要があります。
借地権の3つの成立要件とは
借地権の要件は、①建物所有を目的として、②賃貸借契約を締結し、③有償で利用する権利です。
この3つの要件が欠けているときは借地権は発生しません。
なお第三者への対抗要件には建物の自己による登記が必要です。 よくあるトラブル例としては父親が契約する借地上に家を建て直すときに同居する娘の婿さんが家を建て登記しているケースです。
地主さんが第三者へ売却してしまったときはトラブルになる可能性があります。
2)借地権割合とは
地主さんと貸借契約を締結し、有償で土地を借り、自宅やアパートなどを建て登記している場合、その土地を使用できる権利として借地権が発生します。
借地権は相続や贈与の場合は課税の対象となります。その財産の評価をする為に国税局が各地域ごとに借地権割合を設定しております。
借地権割合はAからGまであり、借地権割合は右の表を参照して下さい。
借地権割合の調べ方
借地権割合は国税局の『路線価図・評価倍率表』のサイトに掲載されております。
国税局の路線価図・評価倍率表のサイト
⇒ https://www.rosenka.nta.go.jp/
3)借地権の課税評価額について
借地権は相続税または贈与税の対象となります。 課税の元となる借地権の評価の方法は次の通りです。借地権の相続税または贈与税の価額の計算方法は、自用地(更地)としての評価額(更地と仮定した場合の評価額)に借地権割合を掛けて求めます。
自用地としての評価額は市街化地域の宅地の場合は路線価に対して土地の形状や道路付等の状況を加味して評価額が決定されます。
借地権の評価額 = 自用地としての評価額 X 借地権割合
例:1億円の評価額で借地権割合が60%の場合
1億円 X 60% = 6000万円
上記のように借地権割合が60%の場合は借地権者の課税評価額は6000万円となり、この金額が相続税の課税対象となります。
4.相続人以外の方が借地権を遺贈された時
遺言書で甥や姪、または第三者など相続人以外の方に借地権を譲る場合は遺贈となります。
遺贈による借地権の権利移転については相続とは異なり、地主さんの承諾が必要となり、地主さんへの承諾料の支払いも必要となります。
5.借地契約書がない場合の借地権の成立は?
借地契約は何十年も前から結ばれている事から、しばしば契約書がない場合もあります。 旧借地法では『借地権の成立に契約書を必要としない』となっておりますので契約は成立しておりますが将来を考えて更新契約の締結をお勧めします。
借地権を遺言書で相続させる場合の注意点
遺言書で借地権を相続させる場合に『○○借地権を長男○○○○に相続させる』と書いた場合と『○○借地権を長男○○○○に遺贈する』とでは大きな違いがあります。 前者は相続となり、後者は遺贈となります。相続人に対して遺贈となると地主さんの承諾や承諾料の支払いが必要になってしまいます。
6.相続した借地権の売却
相続した借地権は第三者に売却する事も借地上の建物を賃貸する事も可能です。建物を賃貸する場合は地主さんの許可は必要ありません。
しかし借地権を売却する場合は地主さんの許可が必要となります。(民法612条1項)
もし地主さんの承諾を得ないで無断で譲渡した場合には、契約違反ということになり土地の賃貸借契約を解除されてしまうこともあります。
借地権を売却する場合は承諾料として地主さんに支払う必要があります。
その承諾料の相場は借地権価格の10%前後のようです。
地主さんが売却を承諾しない場合
借地権の売却を地主さんが承諾しない場合は借地非訟手続という手続によって、裁判所に対し地主の承諾に代わる借地権譲渡許可の裁判を求める申立てをすることができます。
借地権者からの申立てがあると裁判所は譲渡を必要とする事情、譲渡したい者の地代の支払い能力、地代や契約期間等の契約条件、その他一切の事情を考慮して許可の申立を認めるかどうか判断します。さらに裁判所は借地人が地主さんに支払うべき承諾料を決定します。
7.地主さんが亡くなった場合
地主さんが死亡した場合も借地権の相続と同じように地主さんの相続人が借地契約上の貸主の地位を相続します。その際今まで権利義務関係の全てが一括して相続人に継承されますので借地権は影響を受けませんので契約内容も変わりません。
8.底地が第三者に売却された場合
地主さんが相続税の納税の為やその他の理由で底地を第三者へ売却した場合、新たな地主さんに借地権を対抗する為には下記の二つの要件が必要となります。
①借地人により建物の登記がなされている事
②建物が借地上に存在している事
よくあるケースは借地上の建物を立て替えた時に同居している娘の婿さんが建物をたて、登記をしてしまった場合、賃貸借契約上の借地者と建物登記者が異なってしまった場合は新たな地主さんが現れた時は対抗できません。
火事事などによる建物の消失した場合
火事や建て替えなどで建物が滅失した場合は建物を特定するための必要な事項(登記簿明細、滅失日)、新たに建物を建築する旨をその土地の上に掲示することで第三者に対抗する事が可能です。
この借地権保存の掲示をする前や掲示が撤去された後に現れた第三者には掲示による借地権の対抗はできません。
9.地主さんと良好な関係を保つ事
地主さんとの良好な関係を保つ事は重要です。
家の建て替えや借地権の売却、底地の購入、底地と借地権の共同売買、底地と借地権の等価交換など、どれも地主さんの協力がえられないと実施できません。
日ごろから地主さんとの関係性を意識し、良好な関係を維持しておく事が重要です。
借地権を相続した時の選択肢の実例
借地権の相続で当事務所にご相談に来られた方々が、相続手続き終了後に選択された方法は、他の相続人との遺産分割協議事情や借地権地の立地事情などもそれぞれ違いますので選択枝は様々ですが、主に下記の6種類のいずれかを選択しました。
①借地権契約を継続して自宅として住み続ける。
②底地を地主さんから買い取り、土地の所有者となる。
③借地権を地主さんに買い取ってもらう。
④土地が広い場合は地主さんと等価交換し土地所有者となる。
⑤借地権を第三者または買取業者に売却する。
⑥借地契約を継続し、借地上にアパート等の収益物件を建て有効活用する。
相続した借地権はそこに住む予定がない相続人さんにとっては負担と感じる方もおりますし、逆に収益物件等を建て借地権を積極的に有効活用される方もおり様々です。
しかし借地権に関する情報が少ないので判断を誤る事になってしまったり、借地権が複数の相続人で共有されている場合などは更に権利関係が複雑になりますので、借地権の売買や活用ができないで困っている方も少なくありません。
複数で共有された借地権の場合など権利関係が複雑な場合は借地権の売却や有効利用については借地権に詳しい専門家に相談されたほうがいいでしょう。