遺言執行者の役割と義務・遺言執行者が必要なケースとは

相続の基礎知識
遺言執行者の役割 メリット

1.遺言執行者の役割とは

遺言執行者の役割と遺言執行者の必要なケースとは

遺言執行者の役割とは、亡くなった遺言者の思いである遺言の内容を相続人または遺贈された人の代表として相続手続き業務を行うもので、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており、また遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます。(民法第1021条 遺言執行者の権利義務)

遺言執行者が就任後その執行業務を相続人が妨害する事は禁じられています。またその行為は無効となります。(民法第1013条 遺言執行者の妨害行為の禁止)

2.遺言執行者の義務

1)遺言執行者の任務の開始と通知義務(民法第1007条)
  遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
  遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に
  通知しなければならない。

2)相続財産の目録の作成と交付義務(第1011条)
  遺言執行者は、遅滞なく相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

3)遺産管理と執行の権利義務 (第1012条)
  遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の
  行為をする権利義務を有する。

3.遺言執行者を選任すべきケース

①相続人が多忙であったり、法律的手続きに不慣れで自分たちでは手続きが難しい場合

②相続人に認知症の者や行方不明の者等がいる場合

③家族関係が複雑だったり、相続人の関係性が悪い場合

④清算型遺贈の場合や不動産の遺贈の場合

遺言執行者の執行業務の内容とその手順

遺言執行者に就任し、執行業務を行う基本的な内容と手順は下記の通りです。

1) 就職通知書を送付する
  遺言書で遺言執行者として就職した場合は遅滞なく就職を承諾する旨の通知書を相続人や
  遺贈を受けた人の全員に送付します。

2)相続人を特定と遺言執行者就職通知書と遺言書の写しの送付
  遺言執行者就任後遅滞なく執行業務を開始し、戸籍を収集し相続人を特定し、就職通知書
  および遺言書の写しを相続人全員または遺贈された人に送付します。
 (自筆証書遺言書の場合は家庭裁判所に検認の申立てが必要となります。)

3)相続財産目録の作成と交付
  銀行口座、証券口座等の残高証明書の収集や貸金庫の開扉と内容確認、不動産などを
  特定した上で、相続財産の目録を作成し、これを相続人及び遺贈された人に交付します。

4) 遺言執行者の具体的な執行業務
  ①銀行口座の解約、払い戻しや証券口座の名義変更または解約し、相続人や受遺者へ分配
  ②貸金庫の開扉し確認、解約と取り出しし、相続人や受遺者へ分配
  ③不動産の相続登記手続き
  ④不動産の換価分割の場合は不動産を売却し、相続人や受遺者へ分配
  ⑤寄付遺贈がある場合は指定の団体へ寄付手続き
  ⑥その他財産(自動車、骨董品、絵画、宝石)の相続人や受遺者へ分配

5)その他の遺言執行者の手続き業務
  ①不動産の遺贈がある場合
   不動産の遺贈登記は、受遺者(登記権利者)と遺言執行者または相続人全員
   (登記義務者)が共同申請する必要があります。
   遺言執行者がいるときは遺言執行者が遺贈義務者となり遺贈登記申請ができます。
   遺言執行者がいない場合は相続人が遺贈義務者となり、遺贈登記の申請に相続人全員の
   協力が必要になります。

  ② 遺言認知の場合
   被相続人に婚姻関係にない女性との間で生まれた子どもを遺言で認知する場合は遺言執行者
   だけ手続きが可能です。遺言執行者は、就職の日から10日以内に認知届出書に遺言書の
   謄本を添付し市区町村役場に届けなければなりません。

  ③相続人の廃除や取り消しがある場合
   相続人の廃除や廃除の取り消しの手続きが行えるのは遺言執行者のみで、遺言執行者は
   遅滞なく、家庭裁判所に廃除や廃除の取り消しを請求しなければなりません。

4.遺言執行者になれる人

遺言執行者は未成年破産者以外であれば誰でもなる事が可能です。
相続人や知人などに任せることも、複数人また法人に任せる事も可能です。
相続手続きは戸籍の収集、銀行、証券会社などの口座解約、不動産登記または換価分割に伴う売却など手間と時間がかかるケースが多いので相続手続きに詳しい相続専門の弁護士、行政書士などに依頼したほうがスムーズに相続手続きができるでしょう。

5.遺言執行者の選任の方法

遺言執行者を選任する方法は下記の3つの方法があります。

遺言執行者の選任方法には遺言で①遺言執行者を指定する方法と、②遺言執行者を指定する人を指定する方法があります。
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や遺言執行者が既に亡くなっている場合、または就任予定者が就任拒否をした場合は、③家庭裁判所に選任の申し立てをする方法があります。

6.遺言で遺言執行者が選任されていないときは?

遺言執行者は遺言書で必ず選任しなければならないわけではありません。
特に自筆証書遺言書の場合は遺言執行者が選任されていない事が多いです。遺言執行者が指定されていなくても相続人が相続手続きを進める事はかのうですが、財産が多かったり、相続関係が複雑な場合や、相続人の関係がよくない場合などは、相続を専門とする弁護士、行政書士などに依頼したほうがよいでしょう。

家庭裁判所への申立てによる遺言執行者の選任方法

遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や、指定された遺言執行者がすでに亡くなっている場合、または選任予定者が就任拒否をした場合は、申立てにより家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことができます。

遺言執行者専任の申立てのできる人
相続人や②遺贈を受けた者、③遺言者の債権者などの利害関係人が家庭裁判所への申立てができます。
申立て先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所となります。

家庭裁判所に申し立てに必要な書類
①遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)
(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合は添付不要)
②遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
③遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の
 事件記録が保存されている場合は添付不要)
④利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等)

7.遺言執行者の解任

遺言執行者職務を怠った場合やその他正当な理由がある場合には、相続人や受遺者などの権利関係者全員の同意の上で、家庭裁判所に申し出ることで遺言執行者を解任することはできます。

民法第1019条 遺言執行者の解任及び辞任

第1019条
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

具体的な解任理由には下記のようなものがあります。
任務の怠慢】
①遺言執行者として執行業務を開始しない、または一部の遺言執行しかやらない
②遺言執行者が相続財産目録を渡さない
③遺言執行者が執行状況を教えない
【正当な事由】
①遺言執行者が長期入院しているまたは行方不明
②一部の相続人に有利なまたは不利益な扱いをしている
③遺言執行者が不正に財産を着服している

遺言執行者の解任手続きと必要書類

遺言執行者を解任するには、利害関係人が家庭裁判所に解任請求をする必要があります。
解任を請求できるのは相続人、受遺者、共同遺言執行者またはその他の利害関係者です。

解任請求に必要な書類
①遺言執行者解任申立書
②遺言書の写し
③遺言者の戸籍(除籍)謄本
④申立人の戸籍謄本、利害関係を証する資料
⑤解任事由を証する資料


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